債務者の相続人の競売買受け

1 債務者は競売物件の買受ができない

2 破産した債務者の相続人はどうか不明であった

3 最高裁の決定が出て,買受が認められると判断された

1  債務者は競売物件の買受ができない

債務者,たとえばあなたの父が負債を支払えずに,その所有する不動産が競売になった。その場合に,債務者であるあなたの父は何とか資金を準備して,競売物件を買受けて取り戻しすることができるか?自宅などの場合,他に転居するより経済的であったり便利であったりするので,実務的にもこのような債務者の動きが観られることがある。

しかし,民事執行法68条によると「債務者は、買受けの申出をすることができない」と規定されている。

2 破産した債務者の相続人はどうか不明であった

それでは,債務者,たとえばあなたの父が,破産して,免責許可決定を受けた後に死亡し,相続人であるあなたが競売になった債務者である父の物件を買受けることはできるのかどうか。免責で負債は効力がなくなっているし,相続人は債務者その人ではない。この点については明確な規定がない。

3 最高裁の決定が出て,買受が認められると判断された

これについて,最高裁判例が出た。売却不許可決定に対する執行抗告棄却決定に対する許可抗告事件,最高一小決令和3年6月21日裁判所時報1770号21頁

下級審が買受できないとしたのに対し,最高裁は買受できると判断した。その理由は以下のとおり。

「(民事執行)法において準用する法68条によれば、担保不動産競売において、債務者は買受けの申出をすることができないとされている。これは、担保不動産競売において、債務者は、同競売の基礎となった担保権の被担保債権の全部について弁済をする責任を負っており、その弁済をすれば目的不動産の売却を免れ得るのであるから、目的不動産の買受けよりも被担保債権の弁済を優先すべきであるし、債務者による買受けを認めたとしても売却代金の配当等により被担保債権の全部が消滅しないのであれば、当該不動産について同一の債権の債権者の申立てにより更に強制競売が行われ得るため、債務者に買受けの申出を認める必要性に乏しく、また、被担保債権の弁済を怠り、担保権を実行されるに至った債務者については、代金不納付により競売手続の進行を阻害するおそれが類型的に高いと考えられることによるものと解される。

しかし、担保不動産競売の債務者が免責許可の決定を受け、同競売の基礎となった担保権の被担保債権が上記決定の効力を受ける場合には、当該債務者の相続人は被担保債権を弁済する責任を負わず、債権者がその強制的実現を図ることもできなくなるから、上記相続人に対して目的不動産の買受けよりも被担保債権の弁済を優先すべきであるとはいえないし、上記相続人に買受けを認めたとしても同一の債権の債権者の申立てにより更に強制競売が行われることはなく、上記相続人に買受けの申出を認める必要性に乏しいとはいえない。また、上記相続人については、代金不納付により競売手続の進行を阻害するおそれが類型的に高いとも考えられない。

そうすると、上記の場合、上記相続人は、 (民事執行)法188条において準用する法68条にいう「債務者」に当たらないと解するのが相当である」

2021.8.15時点の記事です。

家賃の保証人から外れる方法

質問
知人が賃貸アパートを借りていますが,家賃を支払わず,家賃が滞っています。家主から保証人の私の方に請求が来て,保証人の私が延滞した家賃を支払い続けています。今後ずっと払い続けないといけないのでしょうか。
知人には家賃を支払うか,物件から出て行くか,どちらかにして欲しいと再三伝えていますが,生活が苦しいこともあるようで,のらりくらりとして出ていく気配が感じられません。このままでは,一生知人の家賃を支払い続けることになります。
保証人を変えるなどで保証人から外れることはできないのでしょうか?
また,当初の賃貸借契約期間2年が切れても保証人から外れないのでしょうか。

どちらもダメ,だけど落ち着け!
保証人の変更は貸主と新たな保証人の同意・協力が必要で,保証人の変更はこの条件が満たされるまで実現できません。保証人の責任はあなたが身をもって理解されているように厳しく,保証人の交代はババ抜きをさせるようなものですから,保証人の変更はまず難しく,いつかこの条件が満たされるであろうということも,残念ながら,全く期待できません。
また,家屋の賃貸借は更新するのが普通なので,当初の契約期間がきれた後,次の更新契約においても保証人が責任を取ることになるというのが判例(平成9年11月13日最高裁判所第一小法廷判決)です。

八方ふさがりか?
一生足枷に?

一生家賃の面倒をみなければならないのではないか,という不安で頭がクラクラするでしょう。
でも,大丈夫,そういうことはありません。
どうしたらよいのでしょうか。
アナタの保証人としての責任を制限する方法があります。

保証人の責任制限

保証人の責任を制限する方法として,

①家主の請求に対して権利濫用の主張
②(理論不明も)更新後は責任なしとの主張
③特別解約権の行使
があります。

とりあえず,①と②を説明しますと,
①は家主から保証人に未払い賃料の請求があったときに,その家主の請求は権利の濫用であるとして,拒否する方法です。
②はあるポイントとなる時期を過ぎた後の契約期間更新後は責任がないという主張です。
①も②も家主から賃料請求訴訟が起こされたときに被告として主張するものです。

③は家主が訴訟を起こす前の手続です。

裁判例を末尾にあげておきます
大雑把に言うと,おおよそ,借主の家賃滞納が常態化しているのに,保証人がいることをいいことに,家主が契約解除や明渡し手続きをとらない例では保証人の責任制限が認められやすい。
家主側としては借主の家賃滞納が常態化したら,遠慮なく保証人に通知すること。保証人としても「なぜもっと早く知らせてくれなかったのか」と思うケースも多いだろう。

どれでもいい?

まず③の特別解約権を行使すべきである
  理由1:①の権利濫用の主張は不確実です。権利濫用になるかどうかは諸事情を勘 案して判断されるからです。
  理由2:②もどこから保証人の責任がなくなると裁判所が考えるのか,不確実極まりません。 
  理由3:①②は家主からの訴訟後の問題ですが,③はこちらから積極的にこれ以上責任は持てないよと行動する手続ですから,早く責任を免れやすい。
  理由4:③の特別解約権を行使しておけば,たとえその時の特別解約権行使が認められなくても,後日訴訟で①や②の主張,つまり責任がなくなっているという主張がより早い段階で認められやすくなると考えられる。

内容証明を出して後は待つ!
特別解約権の行使は内容証明郵便で出すことを忘れずに。
やるべきことをやったならば,結果を待ちます。

今後の教訓
そもそも,知人から保証人になることを求められ,断りにくかったら,保証人の保証人(あなたが払わされた時に支払い分をあなたが請求できる別の人)として知人が大切にしている人で資力がある人を設定することが条件だと言うべきでした。同列の保証人複数を条件としてもいい。
 知人「家賃はちゃんと支払う」「保証人になってもらうのは形だけだ」「そんなにしてまで,俺のことを信用できないのか!!!!」
と言われたら,・・・
 あなた「お前が裏切らない限り誰も傷つかないのだよ」「だから保証人を増やしても大丈夫だろう」(大いに皮肉)と言ってやればよいのです。

離婚時などにも注意
同様の事例は別れた後の配偶者,元夫,元妻の保証人となったり,愛人の保証人となったりするケースでも発生する。元夫,元妻や愛人は保証人が家賃を負担すべきだと考えがちだから。こういうときは期間更新後は保証人にならない,引き続き保証人になるかどうかは更新時に決める,とはっきり取り決める。

裁判例
①権利濫用
昭和51年7月16日東京地方裁判所判決
訴外会社は同年一〇月一日原告との間で請求原因五項のとおり同年一一月三〇日を期限とする明渡の和解をした
本件建物は交通上不便な場所に位置し、賃借単位である一室の広さが五〇坪弱もあって、借り手が得難いこと、本件建物中二階の一室はここ一年来空室のままで賃借人が得られないことが認められるので、原告が昭和五〇年一一月三〇日の明渡期限到来後も前記和解調書による明渡執行に着手しないでいるのは本件建物部分を空室とするよりも訴外会社に使用を継続させ、訴外会社又は被告から賃料相当損害金の支払を受ける方が得策であるとの判断に基づくものと推認でき、原告本人尋問の結果中明渡の執行費用として一〇〇万円ないし一五〇万円を要するためその調達ができず明渡執行に着手できない旨の部分は、同じ原告本人尋問の結果によって認められる訴外会社は本件建物部分を事務所として使用しており室内には事務用品が置かれているにすぎない事実に照らしてたやすく信用できない。
 そして本件におけるようなビルの一室の明渡は通常明渡期限到来後二か月以内には執行を完了できるものとみられ、本件において明渡執行完了までに特別長期間を必要とする格段の事情の存在はうかがわれないから、昭和五一年二月一日以降の本件建物部分明渡遅延は原告の特段の理由に基づかない権利不行使によるものであり、これにより増大した損害を保証人に負担させることは信義誠実の原則に著しく反するものといわなければならず、原告の本訴請求中昭和五一年二月一日以降の賃料及び共益費相当損害金の支払を求める部分は権利の濫用として許されないものというべきである。

平成20年2月21日広島地方裁判所福山支部判決
公営住宅の賃貸借契約における連帯保証人の意義が上記判示のとおりであって、入居者の賃料不払いを無制限に保証していると解することは相当でないことは上記判示のとおりであるから、公営住宅が住宅に困窮する低所得者に対し低廉な家賃で賃貸し、市民生活の安定と社会福祉増進を目的としていることから、公営住宅の賃貸借契約に基づく賃料等の滞納があった場合の明渡等請求訴訟の提起に関して、その行政実務において、滞納額とこれについての賃借人の対応の誠実さなどを考慮して慎重に処理すること自体は相当且つ適切な処置であるとしても、そのことによって滞納賃料等の額が拡大した場合に、その損害の負担を安易に連帯保証人に転嫁することは許されず、明渡等請求訴訟の提起を猶予する等の処置をするに際しては、連帯保証人からの要望があった場合等の特段の事情のない限り、滞納額の増加の状況を連帯保証人に適宜通知して連帯保証人の負担が増えることの了解を求めるなど、連帯保証人に対しても相応の措置を講ずべきものであるということができる。
賃借人である訴外Aが、平成6年夏頃から、納付誓約書に記載された約束どおりの納付を滞るようになり、その後、新たな滞納分も加わって、平成11年8月25日現在の滞納額は53万7700円、平成12年8月14日現在の滞納額は59万4100円、平成13年9月3日現在の滞納額は99万0800円、平成14年8月7日現在の滞納額は129万3000円、平成15年8月20日現在の滞納額は172万3400円、平成16年12月20日現在の滞納額は226万7000円、平成17年11月17日現在の滞納額は265万3400円と増加したにもかかわらず、被告に対しては、「福山市営住宅使用料(家賃)滞納整理要綱」(甲16)に反して、平成5年12月20日に催告書を送付したのを最後に、平成18年10月11日に至るまで、催告書を全く送付することなく、また、訴外Aの賃料滞納の状況についても一切知らせずに放置していたものであり、原告には内部的な事務引継上の過失又は怠慢が存在するにもかかわらず、その責任を棚上げにする一方、民法上、連帯保証における責任範囲に限定のないことや、連帯債務における請求に絶対効が認められることなどから、被告に対する請求権が形骸的に存続していることを奇貨として、敢えて本件訴訟提起に及んでいるものであり、本件請求における請求額に対する被告の連帯保証人としての責任範囲等を検討するまでもなく、本件請求は権利の濫用として許されないものというべきである。

②一定回数更新後は責任なし

平成6年6月21日東京地方裁判所判決
もっとも、賃借人の賃料の支払がないまま、保証人に何らの連絡もなしに賃貸借契約が期間二年として二回も合意更新されるとは、社会通念上ありえないことで、被告がかかる場合にも責任を負うとするのは、保証人としての通例の意思に反し、予想外の不利益をおわせるものである。本件においては、昭和六三年一一月以降、賃借人川島の賃料不払が継続していたにもかかわらず、被告に何らの連絡もなく、平成二年四月一九日及び平成四年四月一九日の二回にわたり本件賃貸借契約が合意更新されている(被告本人、弁論の全趣旨)のであるから、平成四年四月一九日以降の本件賃貸借に基づく債務について被告は保証人としての責任は負わないものというべきである。

平成10年12月28日東京地方裁判所判決
平成六年二月一四日、山本及び被告に対し、本件建物明渡と未払賃料の支払を求める訴訟を提起した。その後、右当事者間において訴訟外で和解が成立し、新たに本件賃貸借契約及び本件連帯保証契約が締結されたため、原告は右訴訟を取り下げた。
被告は原告に対し、平成六年九月二七日、本件連帯保証契約に基づく連帯保証人を辞する旨の手紙を送付した。
本件賃貸借契約は、平成八年三月三一日に法定更新された(以下「本件更新」という。)。右法定更新の際には従前と異なり、原告は被告に対し、山本の右賃料滞納の事実や山本との交渉経緯、本件賃貸借契約が右のとおり合意更新されずに法定更新された事実について何の連絡もせず、また、連帯保証に関する契約書も新たには作成されなかった。
 原告がかような対応を取ったのは、担当者である今井が、既に前記8により被告が保証意思を有していないことを知っており、さらに、山本が再三賃料を延滞してきたという従前の経緯から被告が連帯保証人を辞することも無理からぬと考えていたためであって、それゆえ、今井自身、被告に対し前記更新の際に連帯保証の依頼をしなかった。
従前の賃貸借契約においては、原告は被告に対し、契約更新の度ごとに連帯保証を依頼した上でその旨の契約書を締結し、また、山本が賃料を延滞した場合にも被告に連絡を取ってその支払を促させ、被告もそれに応じて行動していたものであって、原告は、本件賃貸借契約に関する右のような問題が生じた場合は被告に何らかの了解をとって対処していたことがうかがわれるところ、本件連帯保証契約後に右と異なる取扱をしなければならない事情があったとは認められない。しかるに、本件において、原告は被告に対し、右更新の経緯やその後の賃料延滞についても直ちに知らせず、また、連帯保証人への就任も依頼しなかったが、その理由は、前記一のとおり、原告側が、前記前提となる事実7の手紙により被告の連帯保証人辞任の意向を承知しており、従前の経緯に照らして右意向が示されるのもやむを得ないとの認識を有していたからというものであった。
 また、山本は、前件訴訟の際にも約二四〇万円もの賃料を延滞していたものであり、それゆえ、本件賃貸借契約には賃料の支払を二か月怠ったときには、原告は本件賃貸借契約を無催告解除しうる旨の特約も付されていた。しかるに、本件更新時には、山本の延滞額は二〇〇万円にも及んだが本件賃貸借契約は解除されず、原告自身ですら賃貸借契約の更新に消極的であったにもかかわらずそのまま法定更新されたものであり、さらに、山本は更新後も賃料延滞はおさまらず、最終的にその額は四〇〇万円を超えるまでになり本件訴訟が提起されたというのであって、右のような事態が、本件連帯保証契約が締結された当時、契約当事者間において予想されていたものであったとはいい難い。
 以上の諸点を総合すれば、被告において本件更新後は本件連帯保証責任を負わないと信じたのも無理からぬことであったということができ、山本が本件更新後に負担した賃料等の債務については右連帯保証責任を負わない特段の事情があったものと解するのが相当である。

③特別解約権
昭和8年4月6日大審院判決
その保証人が期間の定めなき保証契約を締結したる後,相当の期間を経過し,かつ賃借人がしばしば賃料の支払いを怠り将来においても誠実にその債務を履行すべき見込なきにかかわらず,賃貸人が依然として賃借人をして賃貸物の使用収益をなさしめ賃貸借契約解除明渡等の処置をなさざる場合においてしかも保証人が保証責任の存続を欲せざるときといえども,なお賃借人の債務不履行に付き保証人の責任を免るることを得ずとなすは信義の原則に反するものというべきをもって,かくのごとき場合には保証人は賃貸人に対する一方的意思表示により補償契約を解除することを売るものと解するを相当とす

昭和14年4月12日大審院判決
期間の定めなき賃貸借につき賃貸人のために共にその債務の履行を保証セル場合に,爾後相当の期間を経過し,かつ賃借人が係属して賃料の支払いを遅滞し将来においても誠実にその債務を「履行する見込みなき」がごとき事態を生じたるか,あるいは保証後に至り賃借人の資産状態著しく悪化しそれ以上保証を継続するときは爾後の分に対し「将来求償権の実現到底おぼつかなきおそれある」か,もしくは賃借人が継続してその債務履行を怠りおれるにかかわらず,賃貸人において保証人に対してその事実を告知し又はその遅滞の生ずるごとにこれが保証債務の履行を求むる等の挙措に出てず「突如として一時に多額の延滞賃料支払いを求め」保証人をして予期せざる困惑に陥らしむるがごとき事態を生じたるにかかわらず賃貸人において以前賃借物の使用収益をなさしめ延滞賃料の異常なる増加したがって保証人の責任の過当なる加重を来さしむるに至るがごとき事情存する場合においては保証人は引続き保証責任の存続することを欲せざるものなること通常の事態なるをもって叱る場合においてもなおかつ賃貸借契約の存続する限り賃借人の債務不履行に付き保証人の責任を免るることを得ずとなすは信義の原則に反するものというべくかくのごとき場合には保証人はその一方的意思表示によりて補償契約を解除し爾後その責任の異常なる加重を避くることを得べきものと解するを相当なりとす

昭和39年6月29日大阪地方裁判所判決
本件賃貸借に期間の定めのないところ保証契約のときから既に七年四ケ月余を経過し、昭和二八年八月分賃料以降四〇ケ月分の賃料の供託がないまま賃貸人と賃借人の紛争ないし争訟が続きもはや早期にその解決をみる見込もなく、延滞賃料はますます膨大する一方で、賃借人たる訴外人の財産に対する保全執行だけでは確保されず、保証人たる被告に対しても電話、ピアノの仮差押がなされていたのであつて、このような事情は保証契約の当初被告の到底予見できなかつた事情ということができるから、右事情の変更により被告において解除権を生じたと解するのが相当である。

昭和56年8月28日東京地方裁判所判決・・・結論否定
賃貸借契約は、更新されることを当然の前提としており、・・・・本件のような賃貸借契約において、保証期間の定めのない保証人が付されている場合、保証人は賃借人が著しく賃料債務の履行を怠り、かつ保証の当時予見できなかった資産状態の悪化があって将来保証人の責任が著しく増大することが予想されるにもかかわらず、賃貸人が賃貸借の解除等の処置を講じないときは、保証人は将来に向って保証契約を解除することができるものと解される。
賃借人が賃料を滞納しはじめた昭和五三年一一月下旬から昭和五六年一月中旬まで訪問督促を計一四回文書による督促を計四回同人に対し、行っていることが認められ、右認定に反する証拠はない。
賃借人は昭和五三年七月以降の家賃等の支払を怠っているため、原告は契約の定めに基づき、賃借人に対し、昭和五六年一月三一日送達の本件訴状をもって前記賃貸借契約を解除する旨の意思表示をした。
 右の事実によれば、原告は本件建物についての賃料の滞納を徒らに放置したものではなく、また滞納の事実があり、将来も履行されないことが確実であることを知りながら賃貸借をことさら継続させたものでもないと認めるのが相当である。よって、被告の保証契約の解約の申入れはその要件を欠き無効というべきである

平成9年1月31日東京地方裁判所判決
(解除後の使用相当損害金の支払いも問題となっている事案)
保証人が特別解約権を行使した平成八年三月六日の時点において、賃借人の賃料等不払は、最終支払日である平成五年二月一五日から約三年に及んでおり、本件賃貸借契約が解除された平成五年五月一八日からでも二年九月に及んでいる。原告が賃借人に対し、本件店舗の明渡しを求める本件訴訟を提起(平成4年)した後、その請求権の有無についての審理に著しい長期間を要したのは、原告の賃貸人としての誠意を欠く態度に起因するところが大きい。すなわち、前記認定のとおり、原告は、本件店舗の修繕義務を尽くさず、そのことについての指摘を賃借人から受けても、徒らにこれを否認し、当裁判所の鑑定の結果により原告の本件ビルの管理が悪いことを指摘されても、なおそれを受け入れずに争ってきたものであり、また、原告は訴訟代理人により本件訴訟を提起する以前には、電気料、水道料等の請求明細もはっきりさせず、賃借人代理人からの内容証明郵便の受取りを拒むなどの不信義な態度を取り、さらに、二〇〇〇万円の保証金についても、これは賃借人が現在差入れ中の保証金にあてられているとして返還を拒絶するなどの不信義な態度を取ってきたものであり、原告のこのような姿勢により、事案の解明に著しい長期間を要したものである。
  3 このような原告の姿勢による原告と賃借人との間の本件店舗の明渡しをめぐる紛争の長期化は、保証人の予期しないところであり、右1のような事情から賃借人の連帯保証人となった保証人に対し、平成八年三月六日以降になっても、なお賃借人の明渡しの遅滞による責めを負わせるのは酷に失し、正義の観念に反する。したがって、保証人については、信義則上、右の時点で解約を認め、賃借人の連帯保証人としての地位からの離脱を認めるべきものである。

以上は,戦前の判例あるいは下級審裁判例ではあるが,前記,平成9年11月13日最高裁判所第一小法廷判決は「保証人の予期しないような保証責任が一挙に発生することはないのが一般であることなどからすれば」という点も理由にし,耐えきれないほど保証責任が溜まった場合の救済措置を前提とするような表現をしており,保証人の制限を肯定する最高裁判例がいずれ出るかもしれない。

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心のレジリエンス

resilience・・・心がつらい状態,ストレスにどのように対応したらよいか

ルーシー・ホーン·TEDxChristchurch,心のレジリエンスを高めるための3つの秘訣から

法律的な紛争の当事者である方に見ていただきたいtalkです。
紛争は面白いことではありません。自分が傷つけられ,相手を傷つけてまた自分が傷つく,まじめに考えてしまうと相当のストレスがかかります。私は,法律の専門家にすぎませんが,心のケアも大切であるため,この心のケアの記事も書くことにしました。

以下,ルーシーホーンさんのトークです。気に入った部分を抽出しました。
トークの全部を見たい方は,以下をどうぞ。
www.ted.com
www.TEDxChristchurch.com
https://www.ted.com/talks/lucy_hone_3_secrets_of_resilient_people?language=ja

最愛の人を亡くした人,失恋をしたことがある人,流産したことがある,不妊でなやんでいる人,離婚をした,不倫の被害を被った人,震災,自然災害の犠牲になった人,失業した人,身近な人の心の病や痴呆,身体障害,自殺に対応せざるを得なくなった人,いったいどのくらいいるでしょう。逆境はどの人にも訪れます。

私(ルーシー・ホーン)にも逆境が襲いました。交通事故による親友と娘の死です。遺族サポートの人が来て回復には時間がかかると言ってくれましたが,それはかえって私たちの被害者意識を強めてしまった。将来の行く先にとてつもなく大きなものが立ちはだかり,悲しみを乗り越える力が出なかった。どんなに酷い状態なのかなんて,わざわざ聞く必要はないのです。私が一番望んでいたもの,それは希望でした。

逆境から立ち直る方法,つまりレジリエンスを高めるための3つの方法をお伝えします。

1.悪いことは起きるものと心得る
レジリエンスの高い人たちは悪いことは起きるものであることを知っています。苦難は人生の一部と心得ています。苦難を呪ってもしかたありません。ポイントは,苦難に対して,おぼれるのか泳ぐのか。

2.変えられることに焦点をあて,変えられないことは受け入れる
私たちは,脅威や欠点に気付くことがとても得意です。ネガティブなことに反応するようにプログラムされているのです。石器時代には住居から出た時に虹よりも猛獣に気付くことが大事でした。現代社会は脅威に満ちています。脳は残念ながらまるですべてが猛獣であるかのように反応するのです。飲み込まれてはいけません。失ったもののために今持っているものを失ってはいけない。幸せなことがらを意識しましょう。

3.今していることは自分を助けているか害を与えているか
逆境を強く意識することがいいことかどうか。さらなる悲しみに陥ることに意味はない。自分に害を与えている思考はやめましょう。自分を助けてあげる,つまり,自分に優しくしましょう。自分の進路,意思決定を多少なりともコントロールできるようになります。

トークからの抽出は以上です。
ものは考えよう,といいますが,希望を与えてくれるトークだと思います。

身元保証

息子・娘が会社に損害を与えたことについて,身元保証人である親のあなたが会社から損害賠償請求をされているケースで,考えるべきこと

目次
身元保証の意義
身元保証の機能
民法改正との関係・・・注意1
身元保証人の賠償金額・・・注意2
身元保証契約の期間・・・注意3
通知義務・特別解約権・・・注意4

(身元保証の意義)
身元保証とは従業員の行為によって会社が損害を受けた場合,会社に損害を賠償してもらうために行う契約

契約するのは従業員ではない親などを身元保証人として身元保証人と企業が保証契約をします。

(身元保証の機能)
たとえば従業員が会社応接室の高額な美術品を必要がないのに手に取って見ていて,過失で壊してしまった場合,会社は従業員に損害賠償すればよいのですが,その従業員が無一文の場合,実際には賠償金が取れないことがあります。そのようなときに身元保証人から取れるようにするために身元保証は契約されます。
そうなったら従業員は身元保証人に迷惑をかけるので,不正行為をしにくくなるという従業員の心理も身元保証の効果です。

(民法改正との関係)
これまでは従業員が企業に損害を与えた場合,従業員の損害賠償義務について身元保証人がその一切を保証する,というのがオーソドックスな身元保証契約の内容でした。
民法改正で,それでは無効になります。
身元保証のようなあれやこれやの損害を広くカバーする保証を「根保証」といいます。今度の民法改正で,個人が根保証をする場合は,極度額という最高額を定めなければ,無効という規定が設定されました。2020年の4月1日からの民法になります。
先ほどの保証の例だと金額が全く出てきませんから保証が全て無効です。
民法上有効な身元保証契約を締結するとすれば、「従業員が企業に損害を与えた場合,従業員の損害賠償義務について身元保証人が〇〇円を限度としてその一切を保証する亅という契約内容になります。極度額を有効要件としたのは,個人の保証人が被る損害を予測して,保証契約するかどうかを慎重に判断させるためです。

注意1
  したがって,会社から損害賠償請求された身元保証人は,身元保証契約が民法の要求する極度額明記の要件を満たしているかどうか確認してください。

(身元保証人の賠償金額)
会社の損害が発生しても身元保証人が支払わなければならない金額は裁判所が定めます。会社の請求金額そのままを支払わなければならないのではありません。
身元保証法第5条
 裁判所ハ身元保証人ノ損害賠償ノ責任及其ノ金額ヲ定ムルニ付被用者ノ監督ニ関スル使用者ノ過失ノ有無,身元保証人ガ身元保証ヲ為スニ至リタル事由及之ヲ為スニ当リ用ヰタル注意ノ程度,被用者ノ任務又ハ身上ノ変化其ノ他一切ノ事情ヲ斟酌ス

最後の「斟酌す」は考慮に入れるということですが,具体的に言うと身元保証人の賠償金額を減額するということです。

注意2・・・身元保証契約により会社から損害賠償請求されても減額交渉せよ,言うなりに払うのは損。最終的には支払い拒否して,訴訟覚悟。

(身元保証契約の期間)
保証期間を定めないと有効期間は3年となり,保証期間を定める場合は5年を限度とされます。
身元保証法1条
 引受,保証其ノ他名称ノ如何ヲ問ハズ期間ヲ定メズシテ被用者ノ行為ニ因リ使用者ノ受ケタル損害ヲ賠償スルコトヲ約スル身元保証契約ハ其ノ成立ノ日ヨリ三年間其ノ効力ヲ有ス但シ商工業見習者ノ身元保証契約ニ付テハ之ヲ五年トス
第2条 身元保証契約ノ期間ハ五年ヲ超ユルコトヲ得ズ若シ之ヨリ長キ期間ヲ定メタルトキハ其ノ期間ハ之ヲ五年ニ短縮ス

有効期間が過ぎると身元保証の効力がなくなります。
入社時だけ契約することも多いのではないでしょうか。

注意3・・・有効期間が定められていなければ3年過ぎると契約切れを主張すべし。

(通知義務・特別解約権)
身元保証契約
第3条 使用者ハ左ノ場合ニ於テハ遅滞ナク身元保証人ニ通知スベシ
 一 被用者ニ業務上不適任又ハ不誠実ナル事跡アリテ之ガ為身元保証人ノ責任ヲ惹起スル虞アルコトヲ知リタルトキ
 二 被用者ノ任務又ハ任地ヲ変更シ之ガ為身元保証人ノ責任ヲ加重シ又ハ其ノ監督ヲ困難ナラシムルトキ

第4条 身元保証人前条ノ通知ヲ受ケタルトキハ将来ニ向テ契約ノ解除ヲ為スコトヲ得身元保証人自ラ前条第一号及第二号ノ事実アリタルコトヲ知リタルトキ亦同ジ

これは会社が身元保証人に頼りすぎないようにさせる規定です。建物の賃貸借契約でも裁判例でこれに準じた取扱いがされています。

会社が通知を怠ったときは身元保証人の責任はなくなるかどうかですが,この法律を作るときに責任がなくなるという条項の案がありましたが,立法時に削られた経緯があります。そうすると通知がされなかったことは裁判所が損害賠償金額の算定で斟酌することになるでしょう。

注意4・・・解約すべき時は解約せよ

民事執行法改正で今から注意しておくべきこと

 民事執行法が改正され,204条以下で「第三者からの情報取得手続」が新設された。一部を除き令和2年4月から施行される。

 206条では,債務者の給与等を差押えるために,債務者の収入を把握している市町村や日本年金機構,公務員共済などに強制執行のために必要な情報を債権者に知らせる手続きが規定されている。

注意が必要な理由

 この手続きを利用できるのは全ての債権者ではなく,養育費の債権者や「人の生命若しくは身体の侵害による損害賠償請求権」を有する債権者に限られている。

 これらの債権者であることが不明確では,この制度が使えなくなってしまう。たとえば離婚事件では養育費の支払いなのか財産分与の支払なのか,あるいは身体DVの慰謝料の支払いなのか不貞の慰謝料の支払いなのかよくわからない事態が生じうる。

 和解において,旧来のように「解決金として金〇〇円を支払う」「慰謝料として金〇〇円を支払う」という条項では,給与等に関する第三者からの情報取得手続が利用できなかったり,債務者から異議が申し立てられたりする。財産分与請求権のみをもつ債権者は206条の対象外だし,不貞は争いがないがDVは争いがある場合に,単純に「慰謝料として・・・」では,「人の生命若しくは身体の侵害による損害賠償請求権」かどうかわからないからである。

注意すること

 改正民事執行法施行前であっても,和解をするときは「養育費として」「人身傷害の慰謝料として」という文言を入れておくべきなのである。

参照条文

民事執行法
(債務者の給与債権に係る情報の取得)
第206条 執行裁判所は、第百九十七条第一項各号のいずれかに該 (新設) 当するときは、第百五十一条の二第一項各号に掲げる義務に係る請求権又は人の生命若しくは身体の侵害による損害賠償請求権について執行力のある債務名義の正本を有する債権者の申立てにより、次の各号に掲げる者であつて高裁判所規則で定めるところにより当該債権者が選択したものに対し、それぞれ当該各号に定める事項に ついて情報の提供をすべき旨を命じなければならない。ただし、当該執行力のある債務名義の正本に基づく強制執行を開始することができないときは、この限りでない。 一 市町村(特別区を含む。以下この号において同じ。)
債務者が支払を受ける地方税法(昭和二十五年法律第二百二十六号)第三百十七条の二 第一項ただし書に規定する給与に係る債権に対する強制執行又は担保権の実行の申立てをするのに必要となる事項として高裁判所規則で定めるもの(当該市町村が債務者の市町村民税(特別区民税を含む。)に係る事務に関して知 り得たものに限る。)
二 日本年金機構、国家公務員共済組合、国家公務員共済組合連合会、地方公務員共済組合、全国市町村職員共済組合連合会又は日本私立学校振興・共済事業団
債務者(厚生年金保険の被保険者であるものに限る。以下この号において同じ。)が支払を受ける厚生年金保険法(昭和二十九年法律第百十五号)第三条第一項第三号に規定する報酬又は同項第四号に規定する賞与に係る債権に対する強制執行又は担保権の実行の申立てをするのに必要となる事項として高裁判所規則で定めるもの(情報の提供を命じられた者が債務者の厚生年金保険に係る事務に関して知り得たものに限る。)2 前条第二項から第五項までの規定は、前項の申立て及び当該申立てについての裁判について準用する。

高齢者から金品をもらったら

高齢者から金品をもらったら,礼状を書いておこう

・・・相続人から「返せ」と言われないように・・・

 あるおばあちゃんがいた。おばあちゃんの親戚は,甥・姪しかおらず,甥・姪たちは,生前,おばあちゃんに近づこうとしなかった。おばあちゃんは,寂しいので,少し年下の女友達複数を作り,旅行に行ったり,互いの家に泊まりに行ったり仲良くしていた。愛嬌のあるおばあちゃんは女友達たちに好かれ,友達としては濃いつながりとなっていた。

 おばあちゃんはお金持ちだったので,女友達の分まで旅行の費用を出したり,金品を友達に送ったり,友達の夫が病気になって友達の家庭の生活費が大変になると,生活費を援助したりしていた。生活費の援助をするようになる前から,一緒に楽しく過ごして,お互いに信頼関係ができていたし,女友達たちはときどきおばあちゃんの身の回りの世話もしていたから,おばあちゃんが友達に生活費の援助をすることは,よく話を聞けば聞くほどごく自然な成り行きに思えた。

 元気だったおばあちゃんも歳には勝てず,かなりの高齢でなくなったのであるが,亡くなるまで元気で頭もしっかりしていた。

 おばあちゃんの死後,甥・姪のうち,おばあちゃんと女友達たちの関係を理解しない一人が現れて,おばあちゃんのお金を返せ,と言ってきた。女友達は,おばあちゃんの好意でもらったものだ,と説明したが,甥・姪の一人は女友達たちがおばあちゃんを騙して,金品を拠出させたと頑なに疑い,不当利得返還請求をし,贈与の証拠を要求した。

・・・

実は,

おばあちゃんの生前に,おばあちゃんと友達は弁護士の法律相談に行っていた。この時の様子は,以下の通りであった。

おばあちゃんたち「先生,私たちの信頼関係は厚く,証拠など必要ありません」

きりぎりす先生「そうですね。楽しくやるのが一番,証拠など作っていたら仲が悪くなってしまいます」

あり先生「仲が良いのであれば,その友達のために証拠を作っておいて,将来,あなたの親族から友達を守ってあげることを考えるべきでしょう,また,そういう話ができて始めて本当の仲良しですよ」

とはいえ,仲の良いものどうし,なかなか証拠が作れるものではなかった。

・・・

そして,結局,訴訟が起きたのである。おばあちゃん,あの世から,さぞや訴訟の行方が気になったに違いない。

そこで!

しっかりした証拠を作れないのであれば,せめて,お礼状など感謝の気持ちを形で残しておきましょう。

もちろん,手元にコピーなどで保管して。先方が,礼状を捨てないように,工夫すれば万全。礼状でなくてもお返しをしてもよい。

礼状は貸し借りではなく,贈与だという証拠になる。

おばあちゃんの荷物から大切に保管されたいくつかの礼状やお返しが出てきたら,いくら疑い深い人でも,贈与があったことを認めるだろう・・・。

駐車場契約の買主からの解約(解除)の注意点

駐車場契約の買主からの解約(解除)の注意点

1.比較的契約解消しやすい

借地借家法の適用はない。
建物所有目的での土地の賃貸借でないから。

借地借家法第2条 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
一 借地権 建物の所有を目的とする地上権又は土地の賃借権をいう。

したがって,解約について厳しい制限はない。

        契約更新を断る

ことも可能。

2.契約期間終了時に要注意

契約期間が定められている場合,更新しないなら,契約期間終了後,遅滞なく,貸主から使用継続に対して,

異 議

を述べなければならない(民法619条1項)。

第619条 賃貸借の期間が満了した後賃借人が賃借物の使用又は収益を継続する場合において、賃貸人がこれを知りながら異議を述べないときは、従前の賃貸借と同一の条件で更に賃貸借をしたものと推定する。この場合において、各当事者は、第617条の規定により解約の申入れをすることができる。

異議を述べないと前契約と同一条件で賃貸借をしたものと推定される。但し,同一条件といっても賃貸借期間は定めのないものとなる。

定めのないものとなった後の解約はいつでもできるが,土地の賃貸借の場合は

1年後の解約

となる(民法617条1項)。この適用を避けるには,初めの契約時,特約で排除する。

第617条 当事者が賃貸借の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合においては、次の各号に掲げる賃貸借は、解約の申入れの日からそれぞれ当該各号に定める期間を経過することによって終了する。
一 土地の賃貸借 一年
二 建物の賃貸借 三箇月
三 動産及び貸席の賃貸借 一日

3.賃料未払いの場合

賃料不払いの解除のケースで,内容証明上,「行き違いで支払をされた場合はご容赦・・・」などと記載するのは,この場合よくない。
借家の事例であるが,「無断転貸を理由とする賃貸借契約解除の意思表示は、それ以外の理由によつては解除をしないことが明らかにされているなど特段の事情のない限り、同時に借家法1条ノ2の解約申入としての効力をも有する」という判例(昭和48年7月19日/最高裁判所第一小法廷/判決/昭和47年(オ)968号)がある。

解除 兼 解約!!

この判例の趣旨からすると,解除通知が届く直前に賃料が支払われた場合でも,解除通知は617条の解約申入れとして有効ということになろうが,上のような記載があるとその記載が特段の事情とされて解除通知の解約申入れとしての効力は無効と判断される可能性がある。契約を継続したいなら別だが。

いずれにしても,未払賃料を微妙なタイミングで支払いされてしまった場合,債務不履行解除が有効となるのかあるいは債務不履行解除が無効で民法617条の解約申入れとなるのか,はっきりしない場合もでてくる。

上記判例抜粋
「賃貸借の解除・解約の申入れは、以後賃貸借をやめるというだけの意思表示であり、その意思表示にあたりいかなる理由によつてやめるかを明らかにする必要はないのであるから、賃貸人がたまたまある理由を掲げて右意思表示をしても、特にそれ以外の理由によつては解除や解約の申入れをしない旨明らかにしているなど特段の事情のないかぎり、その意思表示は、掲げられている理由のみによつて賃貸借をやめる旨の意思表示ではなく、およそ賃貸借は以後一切やめるという意思表示であると解するを相当とする。そうすると、その意思表示の当時、そこに掲げられた理由が存在しなくても他の理由が存在しているかぎり、右意思表示は存在している理由によつて解除・解約の効力を生ずるものと解すべきである。それゆえ、たとえ、無断転貸により解除する旨の意思表示がなされても、その当時、借家法一条の二の正当事由が存在しているときには、右意思表示は同時に同法同条による解約申入れとしての効力をも生じているというべきである」

自己破産されても請求できる・・・自己破産免責対象外の債権・請求権(非免責債権)

2018年2月8日投稿

相談内容

以前,お金を貸し,連帯保証人も付けてもらいました。
2年ほどは順調に返済してもらいましたが,その後借主が行方不明となり,返済が滞りました。そこで,連帯保証人に請求したところ,半年前に自己破産をしたので,支払いはできないと言われてしまいました。
裁判所からは私に自己破産の連絡も来ていません。
どうしたらよいでしょうか。

相談内容の法律的な解説
普通は「自己破産」をすると「破産決定」の次に「免責決定」がされて,負債は支払う必要がなくなる。
しかし,自己破産をした場合,負債の全てが免責されるわけではなく,免責されない負債,非免責債権もある。破産法253条の規定だ。同条に規定する典型的な非免責債権は租税等の債権。
そして,同条には租税等債権の他に非免責債権の一つとして「破産者が知りながら債権者名簿に記載しなかった請求権(当該破産者について破産手続開始の決定があったことを知っていた者の有する請求権を除く。)」も免責されない債権として規定されている。
債権者名簿に記載すると免責について意見申述の機会が与えられる(破産法251条,破産規則76条,いずれも末尾に条文掲載)。裁判所から連絡がないということは,債権者名簿に自分の債権が記載されていないということだ。そうすると非免責債権になっている可能性がある。

先に結論
破産者が①故意あるいは過失により②債権者名簿(債権者一覧表)に記載しなかった債権で,③債権者が破産決定を知らなかった債権は免責されない,ので,これらについて検討し,免責されているかどうか判断する。

もう一度,復習と掘り下げを以下行う。

要点1

債権者一覧表に自分の債権が記載されている,されていないだけで判断してはいけない。

したがって,
「裁判所から連絡が来なかったから債権者一覧表に自分の債権を記載していないだろう,だから,自分の債権は免責の対象となっていない」という債権者の主張は不正確。
なぜなら,
善意無過失で記載しなかった債権は免責対象債権とされるから。なお,「知りながら」というのは過失も含まれると解釈されている。

要点2

債権者が破産決定を知っていたかどうかという点も忘れてはならない。

したがって,
「故意あるいは過失により債権者一覧表に記載するのを忘れた,免責対象外の債権だから支払わないといけない」と即断するのも不正確。
なぜなら,
債権者が破産決定を知っていれば免責の対象となるから。
「(当該破産者について破産手続開始の決定があったことを知っていた者の有する請求権を除く。)」
の部分。債権者が破産手続開始決定のあったことを知っていた場合は,免責となる。債権者に免責に関する意見申述の機会が提供されるべきだという考えから,債権者が破産決定を知っていれば,免責の審理に参加することができるので,免責対象債権にしたもの。
債務者が債権者である身内や友人に破産決定を知らせていたなどがありがち。

再度,しつこく,まとめると
債権者一覧表に記載されているかどうか
②債権者一覧表に記載しないことについて故意過失はあるか
③債権者が破産決定を知っていたかどうか
を検討することになる。

それでは次に,一番問題になりそうな過失について,さらに掘り下げて,どのような場合に過失ありとされるか検討する。

否定例
過失を認定して免責の効果が債権に及ぶことを否定した裁判例として

東京地方裁判所平成14年2月27日判決
大分地方裁判所平成24年5月30日判決

肯定例
過失があると絶対ダメか・・・そうではなさそうだ
軽微な過失は免責とした裁判事例が見られる。
以下,免責を認めた裁判例とそのポイントを記載する。

神戸地方裁判所平成1年9月7日判決
「免責の効果を認めない程の過失があったとは認められない」

事情としては
・債権者債務者間で昭和54年3月に調停調書が作成されていた
・昭和60年2月に免責許可決定がなされた・・・6年経過し忘れやすい
・自己破産に関する債権者数は約30,負債総額は3600万円・・・注意が行き届かず債権者を漏らしやすい
・自己破産に関する債権者のほとんどは昭和57年に借りたもの・・・注意が行き届かず債権者を漏らしやすい
・調停調書を紛失して手元になかったので記載しなかった・・・気づきにくかった
・約4年間請求がなかった・・・4年経過し忘れやすい

東京地方裁判所平成15年6月24日判決
「失念したために記載しなかった」「過失があったと認めるには足りない」

事情としては
・シティズの事案,裁判所の判断にバイアスがかかっている可能性があり,参考にならない

札幌地方裁判所平成26年4月15日判決
「過失があったと認めるには足りない」

事情としては
・平成9年から平成12年まで貸付け
・平成19年免責許可決定
・母親の生活の面倒を見なければいけない・・・忙しい
・自己破産は母の生活費困窮によるもの・・・本件債権は盲点となりやすい
・返済は母が行っており,債権者から請求されたことがない・・・気づきにくい
・債権の記載を躊躇させる事情が全くない
・借用証書署名から免責まで6年経過・・・忘れやすい

東京地方裁判所平成27年10月22日判決
「過失があったことは認められる」
「軽度の過失があるだけでは破産法253条1項6号の適用はない」

事情としては
・平成22年1月連帯保証
・平成22年4月破産申立て
・平成22年12月免責許可決定
・経営していた会社の破産対応に負われていた・・・注意が行き届かない
・保証債務の履行を求められなかった・・・忘れやすい
・破産申立時,主債務の不履行があったという事情がない

以上,
債権者名簿に記載を忘れた債権についても,比較的緩やかに免責の効果を及ぼしている印象をもつ。

破産法

(免責についての意見申述)
第251条 裁判所は、免責許可の申立てがあったときは、破産手続開始の決定があった時以後、破産者につき免責許可の決定をすることの当否について、破産管財人及び破産債権者(第253条第1項各号に掲げる請求権を有する者を除く。次項、次条第3項及び第254条において同じ。)が裁判所に対し意見を述べることができる期間を定めなければならない。
2 裁判所は、前項の期間を定める決定をしたときは、その期間を公告し、かつ、破産管財人及び知れている破産債権者にその期間を通知しなければならない。
3 第一項の期間は、前項の規定による公告が効力を生じた日から起算して一月以上でなければならない。

(免責許可の決定の効力等)
第253条 免責許可の決定が確定したときは、破産者は、破産手続による配当を除き、破産債権について、その責任を免れる。ただし、次に掲げる請求権については、この限りでない。
一 租税等の請求権(共助対象外国租税の請求権を除く。)
二 破産者が悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権
三 破産者が故意又は重大な過失により加えた人の生命又は身体を害する不法行為に基づく損害賠償請求権(前号に掲げる請求権を除く。)
四 次に掲げる義務に係る請求権
イ 民法第七百五十二条の規定による夫婦間の協力及び扶助の義務
ロ 民法第七百六十条の規定による婚姻から生ずる費用の分担の義務
ハ 民法第七百六十六条(同法第七百四十九条、第七百七十一条及び第七百八十八条において準用する場合を含む。)の規定による子の監護に関する義務
ニ 民法第八百七十七条から第八百八十条までの規定による扶養の義務
ホ イからニまでに掲げる義務に類する義務であって、契約に基づくもの
五 雇用関係に基づいて生じた使用人の請求権及び使用人の預り金の返還請求権
六 破産者が知りながら債権者名簿に記載しなかった請求権(当該破産者について破産手続開始の決定があったことを知っていた者の有する請求権を除く。)
七 罰金等の請求権

破産規則
(免責についての意見申述の方式・法第251条)
第76条 法第251条第1項に規定する意見の申述は、期日においてする場合を除き、書面でしなければならない。
2 前項の意見の申述は、法第252条第1項各号に掲げる事由に該当する具体的な事実を明らかにしてしなければならない。

早い者勝ちの土地共有持分放棄

早い者勝ちの土地共有持分放棄
2018年1月10日投稿

記事の概要
いらない物は捨てたくなる。使えない土地も同じ。

いらない物をわざわざ買うことはないとして,相続してしまうことは十分にありうる。
所有権や共有持分の放棄は自由であるとされている,共有持分については民法にも規定がある。
しかし,土地の単独所有権の放棄は登記できない。
数人で不動産を共有している場合,一人ずつ放棄していく,最後まで残った者は放棄できなくなる。まるでババ抜きwwwww
そこで,いらない土地は他の共有者より先に放棄すべきだというのが結論。
以下,詳しい説明をする。

      いらない物は捨てたくなる・・・

いらない物
利用価値も売却価値もないものがある,人口減少が原因か,近年,地方の土地建物についての相談が増えている,固定資産税を支払う必要が生じているだけで,マイナス資産だというのだ。
誰も買わないし,役所も寄付を受け付けない。

      建物は壊すことができるが,土地は物理的に壊すことも捨てることもできない。

単独所有権・共有持分の放棄
理論的には所有権,所有権共有持分は放棄ができる。共有持分については民法255条に規定がある。「共有者の一人が、その持分を放棄したとき、又は死亡して相続人がないときは、その持分は、他の共有者に帰属する」とされている。単独所有権の「放棄」は民法に規定がないが,これも理論的には可能とされている。
それでは,放棄すればよいのか?共有持分についてはそのとおりだが,単独所有の土地は事実上放棄できない。まずは単独所有権の放棄から見ていく。

単独所有権の放棄
「放棄」の方法であるが,単独行為であり,特定人に対する意思表示を必要としない。占有の放棄その他によって放棄の意思が表示されればよい。意思表示の相手が必要だとすると誰を相手にするかという問題がでてくるが,これはクリア。これはよいとして,放棄を第三者に主張するには登記をしなければならないという問題がある。民法177条は「不動産に関する物権の得喪及び変更は、不動産登記法(平成十六年法律第百二十三号)その他の登記に関する法律の定めるところに従いその登記をしなければ、第三者に対抗することができない」と規定する。放棄についても登記をしなければ,相手にされないのである。

      それでは登記できるのであろうか。

単独所有権放棄の登記について
民法239条2項は「所有者のない不動産は、国庫に帰属する」と規定する。
そうすると国に移転登記するのか。また,所有権の放棄の登記は国の所有権に変更するのではなく登記抹消すればよいだけではないかとも考えられる。国庫に属する未登記の土地というものがあってもおかしくもなんともない。
ところが,法務省民事局の登記関係先例,昭和41年6月1日付1124号照会とそれ対する同年8月27日付1952号回答は・・・
(照会)
  一,不動産(土地)所有権の放棄は,所有権者から一方的に出来るか。
  二,もし所有権放棄が可能であれば,その登記上の手続方法はどの様にするか。
(回答)
  一,所問の場合は,所有権の放棄はできない。
  二,前項より了知されたい。

       所有権放棄の登記ができない!!!

       共有持分の場合は,ど,ど,ど,どうなるの?

共有持分の放棄
前記の通り,共有持分の放棄は民法255条によりその持分は他の共有者に帰属するとされている。

共有持分放棄の方法
共有持分の「放棄」の方法は単独所有権と同じで単独行為で相手方を必要としないはずであるが,地上権の放棄について土地所有者に対する意思表示が必要だという判例(大審院明治44年4月26日判決「所有権を有せざる者に対してなしたる地上権の放棄はその真の所有者との間においては何らの効力を生ぜざるものにして・・・」)があるので,他の共有者に対する意思表示をする方法での放棄が無難。

共有持分放棄の登記の方法
登記の種類は移転登記によることになる。実体法上は放棄により持分が消滅し,その持分は他の共有者に「移転」するのではなく,他の共有者がその持分を「原始取得」するとされている。しかし,「移転登記」をする。
「土地の共有持分の放棄がされた場合、放棄により共有持分は一旦消滅するから、このような共有持分放棄による他の共有者又は国の持分権取得は、実体法上は原始取得であると解されるが、登記法上は、この場合には、いわゆる移転的承継取得の場合と同様、一定の原因により権利が一人の帰属を離れるのと同時に他人に帰属するという関係にあり、右のような状態を登記簿上に正確に表示することが不動産登記法の本来の法意に合致すると解すべきであるから、登記手続としては持分権放棄を登記原因として、持分権の放棄者から他の共有者又は国への持分権移転登記手続をすべきものと解するのが相当である(最高裁昭和四四年三月二七日第一小法廷判決・民集二三巻三号六一九頁参照)。」(名古屋高裁平成9年1月30日判決)

       共有持分の場合はなんかできそうだ・・・

登記申請方法
土地の登記は登記によって利益を受ける登記権利者と登記によって権利を失う登記義務者の共同申請による。共有持分の放棄では放棄するものが登記義務者,放棄しない者が登記権利者となる。ところが,登記権利者が協力しないと登記できないことになる。
通常は登記義務者が協力せず,登記権利者が登記義務者に対して登記請求訴訟を提起して,勝訴判決を得て登記をする。
それでは,登記権利者が協力しない場合はどうなるか。
その場合は,登記引取請求訴訟を提起する。

       登記引取請求??

登記引取請求に関する東京地方裁判所平成28年12月16日判決
「原告が被告に対し、原告持分を放棄する旨の意思表示をすることにより、原告持分は、他の共有者である被告に帰属することになる。
  そうすると、原告は、本件土地の共有持分を有していないにもかかわらず、本件土地の不動産登記記録には、原告が本件原告持分を有している旨が公示され、原告から被告への本件原告持分の移転が反映されておらず、現在の実体的権利関係に符合していないのであるから、原告は、被告に対し、不動産登記記録に公示された権利関係を現在の実体的権利関係に符合させるべく、被告に対して本件原告持分の全部移転登記手続を求める登記請求権を有するものと解するのが相当である。したがって、原告は、被告に対し、上記登記請求権に基づき、平成28年10月6日共有持分放棄を原因とする原告から被告への原告持分全部移転登記手続を求めることができる。」
この場合の共有持分放棄に対して,他の共有者は持分を放棄した者から取得した部分のみを放棄することによって引取登記義務を免れることはできない(東京地方裁判所平成28年6月8日判決)。
登記引取請求に関するもともとの判例は最高裁昭和36年11月24日判決,売買解除の事例。

       共有持分放棄の登記は可能だ!
備考
なお,単独所有者が国に対して所有権放棄を理由として登記引取請求訴訟を提起するとどうなるかまでは不明である。

以上による結論!!!

いらない土地の共有者が次々と放棄すると最終的には単独所有となる。
そこまでは登記ができる。
最終の単独所有者は放棄の登記ができない。

貧乏くじ
傾斜地,極小面積地,僻地,親父が原野商法で買わされた所有地が境界確定どころか場所の特定もできない,草ボーボーで人が入れず,鹿・熊しか使っていない,土壌汚染があり近隣から苦情がある,土砂崩れで近隣の住宅を破壊しそうだなど,使用価値がなく,売却もできないのに,固定資産税ばかりかかって困るという事態が生じる。地方公共団体に寄付しようとしても引き取ってくれない。
特に遺産分割で,価値のないものは共有とすることがあるが,分割協議後,あるいは分割調停後,時機を見て放棄すべきである。

参考文献
我妻栄 有斐閣 物権法121,248頁 
小倉馨 「土地の所有権の放棄の登記手続について」法曹746号 (2012.12)
小倉馨 「土地所有権の放棄に関する一考察」民事法務354号(2013.11)
小森谷祥平 「不動産登記実務からの土地所有権放棄論」登記情報 55巻7号 (2015.7)