債務者の相続人の競売買受け

1 債務者は競売物件の買受ができない

2 破産した債務者の相続人はどうか不明であった

3 最高裁の決定が出て,買受が認められると判断された

1  債務者は競売物件の買受ができない

債務者,たとえばあなたの父が負債を支払えずに,その所有する不動産が競売になった。その場合に,債務者であるあなたの父は何とか資金を準備して,競売物件を買受けて取り戻しすることができるか?自宅などの場合,他に転居するより経済的であったり便利であったりするので,実務的にもこのような債務者の動きが観られることがある。

しかし,民事執行法68条によると「債務者は、買受けの申出をすることができない」と規定されている。

2 破産した債務者の相続人はどうか不明であった

それでは,債務者,たとえばあなたの父が,破産して,免責許可決定を受けた後に死亡し,相続人であるあなたが競売になった債務者である父の物件を買受けることはできるのかどうか。免責で負債は効力がなくなっているし,相続人は債務者その人ではない。この点については明確な規定がない。

3 最高裁の決定が出て,買受が認められると判断された

これについて,最高裁判例が出た。売却不許可決定に対する執行抗告棄却決定に対する許可抗告事件,最高一小決令和3年6月21日裁判所時報1770号21頁

下級審が買受できないとしたのに対し,最高裁は買受できると判断した。その理由は以下のとおり。

「(民事執行)法において準用する法68条によれば、担保不動産競売において、債務者は買受けの申出をすることができないとされている。これは、担保不動産競売において、債務者は、同競売の基礎となった担保権の被担保債権の全部について弁済をする責任を負っており、その弁済をすれば目的不動産の売却を免れ得るのであるから、目的不動産の買受けよりも被担保債権の弁済を優先すべきであるし、債務者による買受けを認めたとしても売却代金の配当等により被担保債権の全部が消滅しないのであれば、当該不動産について同一の債権の債権者の申立てにより更に強制競売が行われ得るため、債務者に買受けの申出を認める必要性に乏しく、また、被担保債権の弁済を怠り、担保権を実行されるに至った債務者については、代金不納付により競売手続の進行を阻害するおそれが類型的に高いと考えられることによるものと解される。

しかし、担保不動産競売の債務者が免責許可の決定を受け、同競売の基礎となった担保権の被担保債権が上記決定の効力を受ける場合には、当該債務者の相続人は被担保債権を弁済する責任を負わず、債権者がその強制的実現を図ることもできなくなるから、上記相続人に対して目的不動産の買受けよりも被担保債権の弁済を優先すべきであるとはいえないし、上記相続人に買受けを認めたとしても同一の債権の債権者の申立てにより更に強制競売が行われることはなく、上記相続人に買受けの申出を認める必要性に乏しいとはいえない。また、上記相続人については、代金不納付により競売手続の進行を阻害するおそれが類型的に高いとも考えられない。

そうすると、上記の場合、上記相続人は、 (民事執行)法188条において準用する法68条にいう「債務者」に当たらないと解するのが相当である」

2021.8.15時点の記事です。