自己破産されても請求できる・・・自己破産免責対象外の債権・請求権(非免責債権)

2018年2月8日投稿

相談内容

以前,お金を貸し,連帯保証人も付けてもらいました。
2年ほどは順調に返済してもらいましたが,その後借主が行方不明となり,返済が滞りました。そこで,連帯保証人に請求したところ,半年前に自己破産をしたので,支払いはできないと言われてしまいました。
裁判所からは私に自己破産の連絡も来ていません。
どうしたらよいでしょうか。

相談内容の法律的な解説
普通は「自己破産」をすると「破産決定」の次に「免責決定」がされて,負債は支払う必要がなくなる。
しかし,自己破産をした場合,負債の全てが免責されるわけではなく,免責されない負債,非免責債権もある。破産法253条の規定だ。同条に規定する典型的な非免責債権は租税等の債権。
そして,同条には租税等債権の他に非免責債権の一つとして「破産者が知りながら債権者名簿に記載しなかった請求権(当該破産者について破産手続開始の決定があったことを知っていた者の有する請求権を除く。)」も免責されない債権として規定されている。
債権者名簿に記載すると免責について意見申述の機会が与えられる(破産法251条,破産規則76条,いずれも末尾に条文掲載)。裁判所から連絡がないということは,債権者名簿に自分の債権が記載されていないということだ。そうすると非免責債権になっている可能性がある。

先に結論
破産者が①故意あるいは過失により②債権者名簿(債権者一覧表)に記載しなかった債権で,③債権者が破産決定を知らなかった債権は免責されない,ので,これらについて検討し,免責されているかどうか判断する。

もう一度,復習と掘り下げを以下行う。

要点1

債権者一覧表に自分の債権が記載されている,されていないだけで判断してはいけない。

したがって,
「裁判所から連絡が来なかったから債権者一覧表に自分の債権を記載していないだろう,だから,自分の債権は免責の対象となっていない」という債権者の主張は不正確。
なぜなら,
善意無過失で記載しなかった債権は免責対象債権とされるから。なお,「知りながら」というのは過失も含まれると解釈されている。

要点2

債権者が破産決定を知っていたかどうかという点も忘れてはならない。

したがって,
「故意あるいは過失により債権者一覧表に記載するのを忘れた,免責対象外の債権だから支払わないといけない」と即断するのも不正確。
なぜなら,
債権者が破産決定を知っていれば免責の対象となるから。
「(当該破産者について破産手続開始の決定があったことを知っていた者の有する請求権を除く。)」
の部分。債権者が破産手続開始決定のあったことを知っていた場合は,免責となる。債権者に免責に関する意見申述の機会が提供されるべきだという考えから,債権者が破産決定を知っていれば,免責の審理に参加することができるので,免責対象債権にしたもの。
債務者が債権者である身内や友人に破産決定を知らせていたなどがありがち。

再度,しつこく,まとめると
債権者一覧表に記載されているかどうか
②債権者一覧表に記載しないことについて故意過失はあるか
③債権者が破産決定を知っていたかどうか
を検討することになる。

それでは次に,一番問題になりそうな過失について,さらに掘り下げて,どのような場合に過失ありとされるか検討する。

否定例
過失を認定して免責の効果が債権に及ぶことを否定した裁判例として

東京地方裁判所平成14年2月27日判決
大分地方裁判所平成24年5月30日判決

肯定例
過失があると絶対ダメか・・・そうではなさそうだ
軽微な過失は免責とした裁判事例が見られる。
以下,免責を認めた裁判例とそのポイントを記載する。

神戸地方裁判所平成1年9月7日判決
「免責の効果を認めない程の過失があったとは認められない」

事情としては
・債権者債務者間で昭和54年3月に調停調書が作成されていた
・昭和60年2月に免責許可決定がなされた・・・6年経過し忘れやすい
・自己破産に関する債権者数は約30,負債総額は3600万円・・・注意が行き届かず債権者を漏らしやすい
・自己破産に関する債権者のほとんどは昭和57年に借りたもの・・・注意が行き届かず債権者を漏らしやすい
・調停調書を紛失して手元になかったので記載しなかった・・・気づきにくかった
・約4年間請求がなかった・・・4年経過し忘れやすい

東京地方裁判所平成15年6月24日判決
「失念したために記載しなかった」「過失があったと認めるには足りない」

事情としては
・シティズの事案,裁判所の判断にバイアスがかかっている可能性があり,参考にならない

札幌地方裁判所平成26年4月15日判決
「過失があったと認めるには足りない」

事情としては
・平成9年から平成12年まで貸付け
・平成19年免責許可決定
・母親の生活の面倒を見なければいけない・・・忙しい
・自己破産は母の生活費困窮によるもの・・・本件債権は盲点となりやすい
・返済は母が行っており,債権者から請求されたことがない・・・気づきにくい
・債権の記載を躊躇させる事情が全くない
・借用証書署名から免責まで6年経過・・・忘れやすい

東京地方裁判所平成27年10月22日判決
「過失があったことは認められる」
「軽度の過失があるだけでは破産法253条1項6号の適用はない」

事情としては
・平成22年1月連帯保証
・平成22年4月破産申立て
・平成22年12月免責許可決定
・経営していた会社の破産対応に負われていた・・・注意が行き届かない
・保証債務の履行を求められなかった・・・忘れやすい
・破産申立時,主債務の不履行があったという事情がない

以上,
債権者名簿に記載を忘れた債権についても,比較的緩やかに免責の効果を及ぼしている印象をもつ。

破産法

(免責についての意見申述)
第251条 裁判所は、免責許可の申立てがあったときは、破産手続開始の決定があった時以後、破産者につき免責許可の決定をすることの当否について、破産管財人及び破産債権者(第253条第1項各号に掲げる請求権を有する者を除く。次項、次条第3項及び第254条において同じ。)が裁判所に対し意見を述べることができる期間を定めなければならない。
2 裁判所は、前項の期間を定める決定をしたときは、その期間を公告し、かつ、破産管財人及び知れている破産債権者にその期間を通知しなければならない。
3 第一項の期間は、前項の規定による公告が効力を生じた日から起算して一月以上でなければならない。

(免責許可の決定の効力等)
第253条 免責許可の決定が確定したときは、破産者は、破産手続による配当を除き、破産債権について、その責任を免れる。ただし、次に掲げる請求権については、この限りでない。
一 租税等の請求権(共助対象外国租税の請求権を除く。)
二 破産者が悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権
三 破産者が故意又は重大な過失により加えた人の生命又は身体を害する不法行為に基づく損害賠償請求権(前号に掲げる請求権を除く。)
四 次に掲げる義務に係る請求権
イ 民法第七百五十二条の規定による夫婦間の協力及び扶助の義務
ロ 民法第七百六十条の規定による婚姻から生ずる費用の分担の義務
ハ 民法第七百六十六条(同法第七百四十九条、第七百七十一条及び第七百八十八条において準用する場合を含む。)の規定による子の監護に関する義務
ニ 民法第八百七十七条から第八百八十条までの規定による扶養の義務
ホ イからニまでに掲げる義務に類する義務であって、契約に基づくもの
五 雇用関係に基づいて生じた使用人の請求権及び使用人の預り金の返還請求権
六 破産者が知りながら債権者名簿に記載しなかった請求権(当該破産者について破産手続開始の決定があったことを知っていた者の有する請求権を除く。)
七 罰金等の請求権

破産規則
(免責についての意見申述の方式・法第251条)
第76条 法第251条第1項に規定する意見の申述は、期日においてする場合を除き、書面でしなければならない。
2 前項の意見の申述は、法第252条第1項各号に掲げる事由に該当する具体的な事実を明らかにしてしなければならない。

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